独特な路線を進む日本の電子書籍市場

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日本の電子書籍市場規模は、インプレス総合研究所が毎年公表している調査報告書によると、2014年度は前年度比37.2%増の1390億円となる見込みである。今後も市場は順調に成長を続け、2018年度には3340億円規模に達すると予測されている。現在の市場規模では、アメリカの方が圧倒的に大きい。PwCの年次報告書によると、アメリカの2014年の電子書籍市場規模は、前年比25.9%増の56億9000万ドル(約6660億円)。さらに、2018年には86億9000万ドル(約1兆200億円)となり、初めて紙の書籍の市場を上回ると予測されている。

 日本市場の大きな特徴は、市場全体の約7割をコミックが占めている点だ。日本では、2005年頃から高性能のフィーチャーフォン向けのコミック配信が盛んになり、2007年にはすでに300億円の市場が形成されていたという統計がある。アメリカの電子書籍市場が本格的に形成されたのは、2007年11月に初代のKindle端末が発売されてからなので、2007年当時は日本のフィーチャーフォン向けコミック配信が世界最大の電子書籍市場だった可能性が高い。現在、コミック配信はフィーチャーフォンからスマートフォンに移行しているが、矢野経済研究所は、2017年度になっても電子書籍市場全体の約半分を依然としてコミックが占めると予想している。

 アメリカの電子書籍市場が急成長したのは、Kindleという専用端末が普及したことが大きなきっかけとなったが、日本ではKindleストアや楽天koboなどの主要なストアが、購入した電子書籍をスマートフォンでも閲覧できるアプリを無料で公開していることもあり、スマートフォンで電子書籍を読む人が多い。前述のインプレス総合研究所の調査報告書によると、有料の電子書籍を閲覧するために使っている端末を複数回答形式で聞いたところ、スマートフォンが54%、タブレットが46%、パソコンが33%なのに対して、専用端末は18%にとどまった。

 この数字だけ見ると、日本の電子書籍市場の主戦場はスマートフォンのように思えるかもしれない。しかし、パソコンで電子書籍を閲覧している人が33%と意外に多い点にも注目したい。2015年1月にアマゾンジャパンは、Kindleストアの電子書籍をパソコンでも閲覧できるアプリ「Kindle for PC」を公開した。プレスリリースによると、日本語の電子書籍をパソコンでも閲覧したいという日本のユーザのニーズに応える形でアプリがリリースされたという。実は、楽天koboでも、2014年1月に電子書籍をパソコンで閲覧できるアプリを公開している。Kindleストアもパソコンで閲覧できるアプリを公開したことで、今後パソコンで電子書籍を読む人の割合がさらに増える可能性が高い。

 マーケティング業界では、ホワイトペーパーや無料レポートなど、パソコンで閲覧されることを前提で作られたデジタルコンテンツが以前からよく使われてきた。電子書籍をパソコンで閲覧するビジネスマンが増えれば、電子書籍の形式を採用したビジネス向けコンテンツが増えると予想される。電子書籍ストアは、有料ホワイトペーパーの配布プラットフォームとして活用価値が高まるのではないだろうか。