広告料を還元する新SNS「Tsu」の波紋

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アメリカのベンチャー企業Unlock Tsuが10月下旬にリリースした新しいSNS「Tsu(スー)」が日本でも大きな話題になっている。機能的にはFacebookなどのSNSと似ているが、Tsuの最大の特徴は、広告料収入のうち9割がユーザのアクティビティに応じて分配される仕組みになっていることである。具体的には、他のユーザを招待して自分でネットワークを構築して、そのネットワーク内で表示された広告について分配を受ける権利が発生する。いわばMLM(マルチレベルマーケティング)の考え方を取り入れたSNSと表現できるだろう。

自分が直接招待したユーザを「子ユーザ」と表現するとすれば、子ユーザが招待した「孫ユーザ」、さらに孫ユーザが招待した「ひ孫ユーザ」のコンテンツで発生する広告料収入まで分配の対象になる。広告料がよく取れるコンテンツを投稿するユーザを自分のネットワークにいかに多く勧誘できるかで収入額が決まる。そのこともあって、まだ日本語対応していないのにもかかわらず、日本で子ユーザ獲得、つまりTsuの登録会員獲得競争が激しくなっている。FacebookやTwitterのタイムラインでTsuへの登録を勧誘する投稿が大量発生しているので、すでに目にしたことがある人も多いだろう。

ユーザに収入が分配されるSNSと聞くと、2013年4月に話題になった「Rippln」を連想した人もいるかもしれない。Ripplnは、従来のSNSとアフィリエイトを組み合わせた新しいビジネスモデルとして、日本でも一時話題になったことがある。SNSで友達とコミュニケーションするだけで収入が得られるチャンスがあることから、アメリカではリリース開始後2ヶ月で登録者が60万人を突破するなど、一部では「Facebookの初動を超えた」とまで絶賛された。しかし、Ripplnは収入の配分を受け取るには、入会費と月額維持費がかかる仕組みで、日本ではそれが法律に抵触するのではないかという指摘もあった。それが影響したのかどうかは不明だが、Ripplnは日本では今でもあまり普及していない。

その点、Tsuは無料会員に登録するだけで収入の分配を受ける権利が発生するため、今のところ法的な問題は指摘されていない。分配される報酬は当然ドル建だが、開始から1ヶ月で実際に5000円程度の収入を得たという人も登場している。Facebookですでに多数の友達ネットワークを構築している人にとってみれば、同じことをTsuで行えば小遣い稼ぎができるのだから、特に副業に興味のあるユーザから注目を集めるのは当然かもしれない。

楽天はクックパッドを超えるレシピ共有サイトを作ろうとして、レシピ投稿者にポイントを還元する仕組みを導入した楽天レシピを2010年に開設した。開設当初は、クックパッドのオープン時を上回る勢いで登録者を増やしていったが、現時点ではポイントのないクックパッドの牙城は崩せていない。その理由の一つとしては、小遣い稼ぎがレシピ投稿の目的になってしまうと、徐々にコミュニティ参加の楽しさを感じられなくなるためだろう。Tsuの場合は、果たしてどうか?FacebookやTwitterから移動してきたユーザがTsuに定着すれば、大きな勢力になる可能性もある。先ほど例にあげたRipplnは、直訳すると波紋という意味。Tsuが投げかけた波紋がどのように広がるのか注目したい。